巡業、休場、相撲協会マーケティングの限界
今場所は3横綱2大関が休場している(2017/09/22 時点) 。平幕でも宇良が休場(碧山・佐田の海が途中出場)。多くの力士が休んでいる。異常事態だ。
なぜ多くの力士が休場しているのか。こちらの記事を見てほしい。記者の主張は私の意見に近い。これから先の文章は補足。
ざっくりまとめれば、巡業の過密日程、不祥事以降の「ガチ」を求める空気がきっかけで本場所で怪我する力士が増えているという話だ。
地方巡業については色々思うところがある。そこから協会のマーケティングの残念さを感じる。以下詳しく述べていく。
巡業の二面性
地方巡業は地域貢献・地方ファンサといった一面がある。
おらが町にお相撲さんが来る!という高揚感は好きだ。ご当地力士を応援する地元の人の熱気も好きだ。協会は3.11以降、相撲の存続、ファンからの理解を得るため巡業を増やしたのだと思う。地域貢献運動は素晴らしいことだと思う。
話が複雑なのは、地方巡業が新規ファン開拓といった側面も有しているからだ。
協会公式twitterと巡業
ここ数年の「相撲ブーム」は遠藤などのイケメン力士の台頭、宇良など新星の登場、稀勢の里の横綱昇進など様々な要因が背景にはある。しかし相撲協会公式twitterを抜きにしては語れないと思う。
キュートでチャーミングな力士の一面を切り取ったツイートは話題になった。そして「千代丸たん」の寝姿など巡業のオフショットがバズを生んだ。相撲ファンのアカウントは増えていった。ファンも巡業の様子を投稿し、ファンがファンを呼んだ。
SNSを使いこなす若手・新規ファンも、地元のおばちゃん・おじちゃんも、巡業ではTVで見るお相撲さんを間近で見れる。言うなれば接触現場なのだ。しかも写真取り放題だもんね。
巡業マナーの課題
ただ接触現場として巡業が整備されてるとは言い難い。握手会でサインを頼み列が……なんて話も聞く。こういうことに一々ルール!と叫ぶのも野暮だと分かっているが。
力士が来ればサインや写真を求める人の波がどっと押し寄せる。マゲ結ってる=TVのお相撲さんだ!と早とちりした人から、幕下力士が写真を頼まれることも。心なしか誇らしげに収まる風景は微笑ましくもある。
ただ、ライトな観客が追いかけまわし、警備の人が必死で押さえるのも事実ではある。
全ての観客がコアな相撲ファンであれとは言わない。それはムリだ。ライトなファンにも、地元のじぃじ、ばぁば、おじさん、おばちゃん、ちびっこにもやさしい巡業であってほしい。「幕内・十両力士の顔と名前が一致する奴だけ巡業行け!」だったら相撲ファン層は先細りしてしまう。
ただ、あまりにも力士への配慮が足りていないか。彼らをまるでインスタ映えするスイーツのように扱っていないか。ただの話のタネにしていないか。
私がこのような話をするのは、天風関の「事件」があったからだ。
天風「関取の命」汚され涙と怒り、ファンも分別を - 大相撲裏話 - 相撲・格闘技コラム : 日刊スポーツ
天風関はエンターテイナーで、とってもチャーミングな力士だ。巡業でもお客さんと気さくに話す*1。バラエティに出たら必ず笑いを取ろうとする無邪気な一面もある*2。そんな彼がとっても気を使って書いたのがひしひしと伝わるツイートだ。この関取は、色んな人の立場に立ってものを考えられる、人を思いやれる「気は優しくて力持ち」なお相撲さんなのだなと感じた。
同時に相撲協会に失望したのも事実だ。きっかけはこのツイート。
<夏巡業@渋谷青山学院>お腹にマジックのインクが付き落ち込む、天風。 #sumo pic.twitter.com/ZAiFz8fAj6
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) 2017年8月11日
ファンが、少なくとも私が求めているのは「マジックおなかについて落ち込んじゃった天風くん😞」じゃない。力士を守ってほしかった。天風関が、あのようなツイートをしなくて済む状況にしてほしかった。ニッカンの記者が、なぜ記事を書いたのか、分からないのだろうか。
需要と供給の不一致
話が噛み合わないのだ。全く。(少なくとも私のTLに多い)ファンの要望と、協会のサービスが。新規ファン開拓・既存ファンにも楽しんでもらえるため「力士のお茶目なひとこま」を提供しているのだろう。接触イベ・巡業を多くの場所で行っているのだろう。しかし肝心の力士はどうか?肝心の本場所の土俵は?「土俵の充実」は?
茶目っ気溢れる力士のひとこまは好きだ。私もそういう写真をふぁぼるし、自分で撮れたらしめしめと思ってツイートする。ただ、新規ファンばかり目が行って、マナー等のファン・観客へのの啓蒙がおろそかになっていないかとも思うのだ。事実、友人は初めて巡業に行く際右も左も分からなかったと語っていた。twitterで心あるファンに教えてもらったからよかったけど、協会はガイドを提供していないと。
さらに、巡業に力を入れて肝心の力士が本場所で力を出せないという本末転倒な事態になっている。移動含め巡業はハードだ。ケガを直したい、ゆっくり鍛錬したい力士もいるだろう。事実、白鵬は力士会会長として巡業の改善を求めている。首都圏で一県に何回もやっていると、さすがにそこまでやる必要あるか?と思ってしまう。
「ファン拡大」のため巡業に力士を繰り出し、肝心の本場所で力士がケガでいない。興行の目玉コンテンツとなる力士を、肝心の時に出せない状態でいる。本末転倒以外の何物でもない。ケガなどで力士が元気がないと、相撲の迫力が落ちる。客も元気をなくす。「○○関おらんしこのチケット紙屑だわ」なノリも嫌いだが。どの力士も頑張っている。
新規ファン拡大偏重・巡業過多などの誤った「お客様第一主義」を相撲協会は直してほしい。力士が守られ、充実した本場所の土俵でファン・観客に還元してほしい。こちらも声を上げるので、力士やファンの声に耳を傾け、コミュニケーションをとってほしい。そうしてファン・力士・協会のコミュニケーション不全が収まることを祈っている。何より力士が充実した相撲人生が送れることを。