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呼び起こす会話 音楽やアート

祖父のこと

とても素敵な記事を見つけた*1。ある曲と、母方の祖父のことを思い出した。

まず、この記事で祖父の話をしたいと思う。

 

shionandshieun.hatenablog.com

 

 

殺した側はきっと「善良な人間」であったと思う。本気で民族や国家を考えた先に私の親族の生命を奪っていったのだ。殺した側は今頃何をしているだろうか。もしかしたら、国家の英雄として処遇されているかもしれないし、どこかで生命を落としたかもしれない。

ロックンロールは生きている - 私のエッジから観ている風景

 

 祖父は善良な人間だった。おだやかで、まじめで、どこかぽわーっとしていた。財閥系企業の平社員として働き、母含め4人の子どもを大学or短大に通わせた。生家の没落で、分家に出された故に気位が高く気難しかった祖母を、まぁまぁといなしていたという。私が子どもの時見た二人も、祖父がボケで祖母がツッコミ、というか激しく「○○やいね、もう」と言うのが多かった。文字通りボケ気味だったが、食欲は旺盛で血色は良かった。体はとても健康だった。

 

 母が幼い時猫を拾った。そのとき祖父がつけた名前が「ちょんちょん」。ちょんちょんが生んだ仔猫は「ちょん子」。理由はちょんちょんの娘だから。単純明快である。このネーミングセンスに祖父らしさが凝縮されているような気がする。

 

「父さん、中国にいたからセンスがちょっと大陸風だよね」
母はそう言った。

 

 大正生まれの祖父は、第二次世界大戦で中国へ出征した。詳しくは知らないが、大連に行ったという。結婚したのは、戦後、日本に戻ってからだった。

 

「父さん、天国に行けるかねぇ」と母は言った。
「行けるんじゃない」と私は答えた。
「でも戦争に行ってるからね、人は殺してるだろうね」
「でも、どうしようもなかったもんね、殺さないことは許される状況じゃなかったし」
「お国のためだもの、仕方ないよ」

 

 

 祖父は祖母が亡くなってからぼけがひどくなり、老人ホームの世話になった。祖母が亡くなった直後、いまひとつ事実を認識できていないようだったが、カールじいさんの空飛ぶ家のCMを食い入るように見つめていたのを覚えている。相変わらず食欲は旺盛で、バブを菓子と勘違いして食べようとしたらしい。

 

 祖母が亡くなる前の話だが、一度夜中に祖父が飛び起きて、戦争時代を思い出し道路で行進していたという。もちろんぼけの症状があった頃なので、本人は覚えていないらしいが。戦後60年以上経っても、ぼけ気味の祖父にとって無意識化でフラッシュバックするほど鮮烈なものだったのだろう。

 

 この話を聞いてたため、夏休みの課題で戦争体験の聞き書きがあったのだが、祖父には聞けなかった。ややぼけていたのも理由の一つである。母の実家で穏やかに、ぽわーっと過ごす祖父の背中を見ていた。当時の私は、何か触れてはいけない、触れたら何があるかわからないと思ったのかもしれない。

 

「父さんね、帰ってきてからさ、ベトナム帰還兵みたいになってたらしいんだよね」


 いわゆるPTSDのような症状があったらしい。少ない時間しか過ごしていないが、私の目から見ても、祖父は争うことが好きな戦闘狂の人間には見えなかった。ぽわーっとして、よく食べて、魚のすり身を蓮華ですくって団子鍋を作る、福福しい人だった。

 

 祖父が何を思い、情勢をどう受け止め戦地へ渡ったのかは今となっては知る由もない。日本に戻り、正しいと言われていたものが否定された時、何を思ったのかも分からない。なんやかんや言って祖母と過ごし、子どもを育て、家を建て替えた。家には相当愛着があったらしく、老人ホームに行った後も家に帰らせてくれとゴネることがあったという。それ以外のことは全くごねなかったのだが。

 

 お給料だけでは家計は厳しかったらしく、提灯描きの内職もやっていた。まじめだったので信頼もあったようだ。旅館や祭りの提灯の字を書いていた。好きだったお祭りの季節に亡くなるの、なんだか無邪気な祖父らしいねぇと母は漏らした。

 

 ぼけてからの祖父は、幸せだったのだろうか。猫にちょんちょんと名付けた祖父は、心の片隅で十字架を背負っていたのだろうか。棺桶の中の祖父はやせ、老賢者のようだった。生前の無邪気な子供のような、無垢な福福しい雰囲気とは違っていた。


「父さんやせてハンサムね、若いころの写真にそっくり」
母は伯母と思い出話に花を咲かしていた。同じ机を囲む伯母の孫たちは会わない間にずいぶん大きくなっていた。

 

1920年の元旦に生まれた祖父は、5月の初頭に98歳で大往生を遂げた。

R.I.P.安らかにお眠りください、と祈る。

 

定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険 2-4)

定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険 2-4)

 

 

 

 

*1:HINOMARU」については、『想像の共同体』読めよ(私も読んでないけど)以外の感想は特にない。

「おっさんずラブ」への違和感 BLに何を求めるのか

 おっさんずラブを批評するエントリです。あくまでも個人の感想です。ただ作品やCPを好きでいたいと思う方は、読まないほうが幸せだと思うのでブラウザ閉じて忘れてください。しょせんただの一個人がぐだまいてるだけなので。本文でも触れてますが、ほとんど本編を見ていないので所々間違いや誤解はあるかもしれません。また、拙文でニュアンス等誤解を招くかもしれません。その際はご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。

 

 

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