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呼び起こす会話 音楽やアート

「○○女子」への違和感 (スージョ論考)

 先日、バイキングを見てたら将棋が特集されてました。私が個人的に気になる佐々木勇気六段 *1 にまつわるエピソードが紹介されほほえましい気持ちで見ていました。が、ファンのツイートが紹介されたあたりで不穏なものを感じました。そしてひな壇のトークで嫌な予感は的中し、「最近は『将棋女子』も多くて、未婚の棋士などに熱い視線を……」

 

うわああああああやめてくれええええ。

 

ず○○女子をやめてくれ。○○女子でくくるのをやめてくれ。そもそも「女子ファンはこういう風に見てる」って紹介するのやめてくれ。あと未婚とかガチ恋心理に近いこと触れるのやめてくれ。みんなガチ恋とか結婚対象として見てるみてえじゃねぇかよ。そういう風に紹介すんなよ。やめてくれよ。しかもそういうこと言ったのがよりによって女性のコメンテーターだったのもすげぇモニョるんだよ……などまぁ遺憾の意です。

 

 紹介されたファンのツイートは自分もtwitterで見たものでした。ついに佐々木五段が世間に見つかってしまった、といった内容でした。「マイナージャンルでガチ恋してる人が世間に知られてしまった!」みたいな文脈で語られた(風に少なくとも私は思えた)のが遺憾の意だったんですね。おそらく見つかってしまった、って言葉には「マイナージャンルで外界から変な干渉や紹介されずに済んだのに」って意味もなくはないのかなーと思いました。将棋に関しては完全ミーハーで、ファンの空気も分からないので憶測ですが。ただ見つかってしまった、と言いつつも「自分の好きな人/ジャンルの良さが広まってる!」といった喜びも感じられました。

 

 どうしてそんなに目くじら立ててるのかというと、相撲界隈と重ねちゃうからです。相撲も将棋も「おじさん/男が好きそう」で古くからあるエンタメじゃないですか。どちらも不祥事等で一度は下火になりつつも最近また盛り上がってるじゃないですか。「カープ女子」とかもイケメン選手に盛り上がる女子ファン、って用法をよくされてるのにガチ恋的な取り上げ方は少ない気がします。たぶん野球はもともと盛り上がってて、そこに女性ファンが増えていったからだと思うんです。一方相撲は女性ファンの取り込みと比例するようにまた盛り上がっていったんで「スージョ」って言葉がステレオタイプ化されちゃったと思うんです。力士に萌えて、アイドルみたいにキャーキャー言って、ガチ恋に近い気持ちを持つってイメージに。

 

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 「スージョ」の背景にはtwitterを欠くことができません。「千代丸たん」などはその典型例でしょう。勝負師としてこわい、いさましい、などマッシブなイメージの力士がSNSで「萌え」として消費されていく。遠藤などイケメン力士に黄色い声を上げる女性。若い層の相撲の受け取り方が従来のファンと大きく違うことが目を引いたのでしょう。そして「今までとの違い」を強調するために「女性」が打ち出された。まぁ女性を消費に取り込もうといった意図もあるのでしょうが。

 

 結果「○○女子」が「おじさんコンテンツ」の再興のキーワードになってしまった。そして分かりやすく伝えるために「○○女子」がステレオタイプ化されてしまった。もちろんテレビで伝えるような「○○女子」もいるでしょう。テレビの人もSNSの文脈まで読む暇もないのでしょう。 *2 ただ全ての女性ファンがそうなのだ、と受け取れるような伝え方をされるとゲンナリします。テレビも分かりやすく伝えるためにはステレオタイプ化が必要なのでしょうが。女の子だから恋愛対象として見てる、萌えとして見てると決めつけられるのが嫌なのです。さらにお相撲さんに、「恋愛対象として」「萌え対象として」狙ってる番組や仕事が多く割り振られると私はうーん……となってしまいます。お姫様抱っこされて喜ぶ人がいるのは分かっているのですが……。

 

  もちろん、テレビの制作の方にも一ファンとしてファン心理を熟知されてる人もいます *3 。情熱を傾けて取材や制作を行い、素晴らしい番組を作られている方もいます。時間の制限もあるのでしょうが、即物的に、その場のノリで適当に理解し適当に伝えていいのかと思うのです。そして才能のある人を、人気復活のために安直に使っていいのかとも思うのです。ファンのニーズに応えるのはありがたいのですが、本業に差しさわりのないよう、プロップスを落とさない形でやって頂ければなと願います。もちろん、仕事を受ける本人の無理のない程度で。

 

 女性だろうがオタクだろうが何であろうが、コンテンツ自体の面白さは普遍的なものです。推しポイントは人それぞれでしょうが、どのコンテンツもいかようにも楽しめる懐の深さが人気の秘訣なのだと思います。きっかけは顔の美しさや萌えエピソードだとしても、「女性受けする」以外の要素に惹かれていく場合もあると思います。人をアニメのキャラのように受容し、消費する傾向が昨今見られるのも確かです *4 。逆に言えば、すべてのコンテンツはアニメ的な、オタクに受ける要素を持ってるし、知らず知らずオタク的な要素に普通の人がハマっている場合もある。そもそも「女性ウケ」「オタクウケ」というカテゴライズが馬鹿馬鹿しいような気がします。「おじさんコンテンツ」もそう受け取られてないのです。ただの「相撲」であり「将棋」なのです。

 

 私自身「スージョって言うな、こちとらただの相撲オタだ」というスタンスなのでかなりひねくれた見解だとは思います。「スージョ」という言葉が生まれる前から相撲ファンだったので複雑な心境でした。「ようやく時代が私に追いついたな!!!!相撲の面白さがもっと広まる!!!!!!やったぜ!!!!!」という気持ち半分、「ぜんぜん私らの気持ちをレペゼンしてくれないやん……」という気持ち半分。まぁテレビにとってカメラを向けるべき存在から我々は外れているのかもしれませんが。ガチ恋しようと、萌えようと、どう消費し解釈し好きになろうとそれはファンの勝手です。ただ「女性ファンだからこう好きなんでしょ?」って決めつけてほしくない。そしてそういうノリにのっけた企画でプロの人を必要以上に消耗させたくない。それだけの話です。将棋に関しては藤井四段フィーバーで気になり始めた完全ニワカなのですが、相撲界の教訓(?)を生かして魅力が広まって欲しいなと祈るばかりです。

*1:放送当時は五段、昇段おめでとうございます。

*2:直にファンに取材して雰囲気つかめよと思わなくもないですが。

*3:TBSの相撲担当のスモートフォンさんは丁寧かつ密度の濃い番組を作ってて好きです。あさチャンコールも力士との信頼関係をうかがわせます。

*4:「ドンキ」御用達と思われたフリースタイルダンジョンで、モンスターと呼ばれるレギュラー出演ラッパーにオタクがキャラ萌えした例など。かくいう私もそれです。『ユリイカ』で、モンスターのキャラ立ちという点で、ダンジョンはおそ松さんに似ているといった指摘をヘッズ兼マンガ研究者の岩下朋世さんがしています。

 

ユリイカ 2016年6月号 特集=日本語ラップ

ユリイカ 2016年6月号 特集=日本語ラップ

 

 

勝負事ブラボー (将棋をチラ見し思うこと)

将棋が気になる。きっかけはもちろん藤井聡太四段フィーバーです。29連勝を決めたときの対戦相手、増田四段が1つ下なので、気づけばアイドルも高校球児もAV女優もみな年下(©R-指定)な気持ちに襲われる。何はともあれ同年代の頑張りは見ててこっちもハッパがかけられるし嬉しい。ただ同年代の棋士や関取が「プロ」として厳しい世界で仕事してるの見てるとビビるんですけどね。いくら好きなことで生きているとしても、激しい競争があって高いものが求められてそこでプロとして生きてる同い年の(それも才能に溢れてる)子と自分を比べるとため息一つつきたくなる。これから好きなことで生きていけるかなぁとか、好きなことを職にすべきなのかなぁとか、そもそも好きなことを好きなことって言い切れるのかなぁとか。色々考えてしまう。その上才能あるのかな、とか青臭くて生意気なことまで考えはじめてしまう。いかんいかん。
 
 
話がそれてしまったが、「将棋、楽しそう……」といま指を加えてファンの方を見ています。コンテンツの面白さだけでなく、最近はファンの人の楽しそうな様子が気になってハマることも多い。ファンの方が嬉々としてプレゼンしてる様子みると嬉しくなる。そんなに楽しそうならおらも足突っ込んでみようかなと思えてくる。ファンのファンになってファンになるんですよね。twitterで気になるファンの方の推し語りやプレゼンをふぁぼるようになってから全てが始まる。
 
 
そもそも私、「男たちが」「リスペクトを込めて」「本気で殴りあう(比喩)」コンテンツが好きなんです。平たく言っちゃうと勝負事が好き。相手のことを尊敬してて愛してる(比喩)ゆえに殺しあう(比喩)男たちを見ればカンマ5秒でサムズアップします。地位やプライドや生きざま全てをかけて戦う男が好き。絶対に負けられない闘いで見せる意地が好き。残酷な世界で必死に生きる姿が好き。勝負にまつわる結果を超えたドラマが好き。因縁が好き。戦いを重ねるほど憎みあい愛しあう(比喩)な男たちは最高。勝って鼻息荒い姿も好き。負けて悔しがる姿も闘争心を感じさせて好き。余計なお世話だしはねのけられるだろうけど抱き締めてやりてぇ。勝っても負けてもポーカーフェイスでも最高。
 
 
相撲やMCバトルは、そのもの自体ももちろん面白いけど付随するドラマが好きなところもある。いま、将棋に同じ匂いを感じている。猛烈に感じている。師弟、同期、同門などどこかで聞いたことあるワードが飛び交っている。
 
 
勝負事の面白いところは、勝ち負けの世界の上に哲学が生まれるところだと思う。勝っても美しくなければ無価値という哲学をもつ人がいれば、結果が全てといった冷徹な勝負哲学を持つ人もいる。絶対的な正解が無い世界で矜持をかけ美学哲学がぶつかり合う。そこで白黒がつけられる。しかし人生としてはどうなのか?生き方としてどうなのか?そこにドラマは生まれるが勝敗はつかない。白黒つく世界で人が織り成すグレーゾーンのすべてが愛しい。
 
 
とりあえず試験レポートが落ち着いたら聖の青春読みたい。他にも愛ゆえに本気で殴りあう系コンテンツあったらぜひプレゼンして下さい。あと将棋について燃え/萌えエピや初心者向けのルール本とかあったら教えて下さい。あなたの熱きプレゼンがわたしを動かします。お待ちしております。